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重症の知的障害と自閉症を持つ成人のパニック管理、当事者能力の向上、支援の自給自足の重要性について解説。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

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私が少し接している成人の重症の知的障害と自閉症のある方について少しお話をしたいと思います。

その方は作業所に通っております。作業所の中でパニックを起こすことが時々あります。理由もなくパニックを起こすので、本人も支援者も困っています。ある時、主治医がパニックを減らすお薬を処方してくれました。

ところが、パニックをいつ起こすかがなかなかわからないものですので、周りの支援者は薬を与えるタイミングと薬を与えるタイミングに悩んでいました。それでも、その成人の方の様子を見ながら、SOSが出そうな時はお薬を差し上げていました。そうすると、パニックが少し収まり、あるいはひどくなる前にパニックにならずに済んだという経験が積み重なっていました。

ある日、その当事者の方が少し表情をこわばらせながら支援者の方にやってきて、手を差し出したそうです。はっとした支援者が、パニックを抑える頓服のお薬を差し出したところ、その方がお薬を飲んで安心したような表情を示し、パニックにならずに済んだということが分析されていました。

ちなみにその当事者の方は、知的障害も重度で、自閉症も重度で、言葉でのコミュニケーションはほとんどできない状態です。お薬を与えても、それが何のための薬なのかを理解することもおそらくできていないと思います。しかし、パニックが起こりそうな時にその薬をもらって飲むことでパニックが収まるという成功体験を少し積み重ねることで、自分なりに前兆があった時に手を出してお薬を要求したのだと考えられます。その日以来、その方はちょっと不安定になると職員の方にやってきて手を差し伸べ、自分でパニックを抑えるお薬が飲めるようになりました。

自然と実際のパニックに発展することも減っていきました。これがその人の当事者能力です。パニックになりそうな時に職員のところに行ってお薬を出してもらうというのが支援の自給自足だと学んだことがあります。

発達特性や発達障害があると、人生の様々な段階で様々な壁にぶつかります。子供や学生時代は大丈夫でも、社会人になるとより高度な社会性が要求され、難しい局面に遭遇することもあります。その際は、やはりSOSを再度出して、その時の支援者を見つけて、共同作業を行って成功体験を増やしていくことが必要です。あるいは、それまでの人生の中での成功体験を振り返って、困った時の参考にしても良いと思います。困った時に支援を受け、成功体験を積んで成長、発達をしていくと。このプロセスさえ途切れなければ、発達障害があっても一生涯にわたっての発達が見込めるということになります。

本日は、発達障害の概要についてお話しし、1つ1つの発達障害の特徴と対応のコツについて学びました。そして、支援における8つのステップと、成功体験の重要性、支援の必要性についてお話しました。

 

 

 

発達障害支援は成功体験の積み重ね、2次障害対策、当事者性育成に重点を置き、セルフエスティームの向上を目指す。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

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最後に、発達障害の支援の要点について少しまとめたいと思います。表の1-1-5もご覧になりながらお聞きください。発達の最大の原動力というのは、「できた」という成功体験であると私は考えています。ところが、発達障害があると1人では成功体験を積むことが難しくなってきます。よく「失敗は成功のもと」と言われますが、発達障害を持っている場合は元々うまくいかないことが多く、失敗の連続です。なので、失敗から学び、成功に転じていく、そして成功を体験していくことは非常に困難な場合が多いです。失敗が続くと、それは2次障害の元となってしまうことがほとんどです。

そこで、適切な支援を受けて成功体験を積んでいくことが発達の最大の原動力になります。発達障害の場合は、成功が発達の元ということになります。適切な支援とは、発達の特性の分析を行って、成功体験を増やしていくための戦略を練っていくことになります。ここに支援者の専門性があるわけです。ただし、支援者だけで特性の分析や戦略の立案を行うべきではありません。

なぜなら、支援の最終ゴールは、本人が自分自身の支援ができるようになること、つまり当事者性の育成にあるからです。つまり、本人や保護者と一緒に戦略を練っていく必要があります。その出発点は、最初に挙げたSOS、つまり日常生活での困りごとです。

日常生活の困りごとをSOSとして発信し、それを支援者がキャッチすることで、本人や保護者とともに特性の分析や戦略、対応の立案の共同作業をスタートさせます。そして、成功体験が増えていくことが支援の目的になります。成功体験が増えると、本人および家族の手応えが増し、セルフエスティームや自尊心が高まります。できないことだらけで失敗体験が多いと、自分の特性を振り返ることは難しいです。しかし、支援を受けて成功体験が増えると、手応えが増え、自分を振り返ることができるようになります。そうすると、自分でも自分の特性を少し理解し、それに合わせた対処行動ができるようになります。

このようにして、当事者能力が育っていきます。この繰り返しで、支援が最小限になっていくことが理想です。困った時は、自分の特性を振り返って、自分の特性に合わせた対処行動をしていくことで、対処行動のレパートリーが増えていきます。これが支援の自給自足です。しかし、それでも人生の様々なライフステージで本当に困った時、支援が必要な時は、何度でもSOSを出して良いということになります。色々な事例が頭に思い浮かびます。

 

 

 

大人の発達障害対応、2次障害治療、発達性トラウマ障害理解、保護者支援と感覚過敏配慮の重要性を解説。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

「発達性トラウマ障害」というのは私も知らなかった。

 

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次に、大人の発達障害の対応について少し話します。

どうしてもうまくいかないことばかりが注目されがちですが、大人になるまでなんとかやってこられたという本人なりの対処行動もあります。それに注目するのが支援の基本です。子供のうちから診断を受けて支援を受けてきた場合は、どんな支援が役に立って、どんな工夫をして切り抜けてきたのかを一緒に考えます。

大人になって初めて診断を受けた場合は、診断なしでやってこられた強みがあるわけです。自分なりに、あるいは家族なりに工夫して対処してきた成功体験を一緒に振り返り、その限界点について一緒に検討していきます。これまでの努力を認めつつ、より良い対処行動を探していくことが必要です。

一方で、2次障害がきっかけで発達障害が明らかになる場合もあります。2次障害とは、発達の凸凹に対する不適切な対応が長く続いている状態から生じます。体の症状がメインの心身症的な状態や、精神症状のメインの状態、抑鬱や適応障害、あるいは引きこもりや暴力行為などの反社会的な状態になる場合があります。2次障害への対応は、表1-1-4にも記してあります。どんな2次障害であっても、まずは目の前の症状への対処療法を行います。お腹が痛い、頭が痛い、眠れないなどの症状があれば、それに対する治療を行っていきます。そしてその次に、2次障害を引き起こすに至った不適切な環境を少しずつ変えていきます。ただし、複雑な状況はすぐには改善されません。したがって、本人の辛さを受け止め、家族を支えつつ、少しずつ改善していけるように、長期的な視点でじっくりとサポートすることが必要です。

9番目に、発達性トラウマ障害について少し触れたいと思います。発達障害は生まれつきの中枢神経系の障害ですが、実は発達障害のような状態を呈していても、強烈なトラウマ体験が原因となっている場合があります。これを発達性トラウマ障害と呼んでいます。長期のトラウマ、例えばいじめや戦争レベルの過酷な状況によって、脳の機能や形態が変化し、攻撃性や感情の不安定性、激しい気分の変調、種々の依存症など、発達障害や精神疾患に発展することがあります。ほとんどの場合、虐待の後遺症であることが多いです。この場合、元々の発達障害がなくても、発達障害と同じような症状を呈します。ですので、支援には区別が必要です。しかし、実際は発達障害と発達性トラウマ障害が混在していることも多く、注意が必要です。詳細は参考文献もご参照いただければと思います。

保護者への支援についても触れたいと思います。発達障害のある子供の育児は非常に大変で、通常よりも多くの努力が必要です。例えば、泣いている幼児をよかれと思って抱きしめても、感覚過敏や皮膚過敏の強い子供では余計に泣きやみませんし、抱っこした親が途方に暮れることも少なくありません。親が頑張って育ててきたことを認め、責めることなく、親の辛さに耳を傾け、親なりに工夫してきた対処行動を認識し、さらにその時点から子供の特性に見合ったより良い対処行動を一緒に考えていきます。もちろん、親だけの育児には限界があることも多いため、様々な社会資源を活用し、地域全体で親子を支え、見守りながら育てていくことが不可欠です。

 

 

 

ADHD、特異的学習障害、発達性協調運動障害への対応、環境調整、刺激管理、薬物療法の重要性を解説。発達障害支援の概要。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

一口に発達障害といっても多種多様であることを忘れないこと。

 

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4番目はADHD(注意欠如・多動性障害)です。ADHDの主な症状は、多動、衝動、そして不注意です。言い換えると、体も気持ちも様々な刺激に容易に反応し、同時に複数の刺激に対する処理がうまくいきません。なので、原則として提示される刺激の数を減らすことが最優先です。ただし、様々な刺激が多い場合は、1つずつ順番に提示するか、重要な情報を強調して刺激の重み付けを行い、大事なところをきちんとメリハリをつけて提示することが大切です。また、注意の持続時間が短いため、長い課題は小刻みに分けて行い、合間に休憩を挟みます。集団への一斉指示だけではなく、本人への個別の声掛けによって注意を向けさせる必要があります。一方、不注意による忘れ物などには積極的に大人が介入し、注意喚起の声掛けや忘れ物防止の工夫をして、周囲のサポートを補います。ADHDは多くは年齢と共に改善が見込まれますが、特性に見合った対処行動が自分でできるようにするために、自尊心を損なうような対応は避けるべきです。

6歳以降で薬物療法が用いられることがあります。日本では数種類の薬物が使用されています。改善率は約70%から80%程度と言われていますが、あくまでも対処療法に過ぎません。薬の助けを借りながら成功体験を積み重ね、発達を促進する必要があります。

次は、特異的学習障害です。特異的学習障害は、文字を読んだり、書いたり、あるいは計算するなど特定の学習能力が発達段階よりも劣っている状態です。分類すると、読字障害、書字障害、算数障害の下位分類に分かれます。

少し前は学習障害という言い方をしていましたが、学習障害は勉強ができない人が全てそうであるかのように誤解されやすいため、DSM-5最新の診断分類では特異的学習障害と名前が変わりました。基本的には勉強が始まる6歳以降に明確になる状態です。

大事なことは、知的発達障害やその他の発達障害がある場合は、そちらが優先されるということです。支援にあたっては、まず知能低下やその他の発達障害がないかをきちんと区別します。知的発達障害やその他の発達障害があれば、まずそちらの対応が優先されます。本物の特異的学習障害では、学習困難さがどのように生じているかの分析と、その分析に応じた学習方法の検討、一つ一つコツコツと段階的に習得していくこと、パソコンやタブレットの導入、そして得意科目を通じて自信の強化などが重要になります。

6番目は発達性協調運動障害です。これは単なる無器用さではなく、中枢神経系の発達の障害の一つです。頻度は約5%とも言われています。大きな体の使い方、例えば歩行やジャンプ、跳び箱、鉄棒などの粗大運動の障害と、手先の障害、細かい作業、例えば鉛筆の持ち方、はさみの使用、ボタンやファスナーなど日常生活の多くの細かい運動の障害からなります。これも単に気合や根性で改善するものではなく、的確なアセスメントと支援が必要です。

苦手な身体活動の分析を行い、本人がやりやすい方法を一緒に考え、一つ一つのスモールステップで苦手さを軽減していくようにします。過度の努力は苦手意識を増やすだけなので、慎重に対応します。

ここまでが代表的な発達障害への支援です。

 

 

 

運動発達障害と自閉スペクトラム症の対応法、感覚調整障害への配慮、非言語コミュニケーション強化、感覚過敏対策を解説。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

プラス面を伸ばすのは大事だなと思う。

 

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2番目は、運動発達障害がある子供の対応です。運動発達障害は狭い意味での発達障害には含まれませんが、発達の遅れがあって日常生活に不適合が生じているという定義には合致しますので、ここで述べたいと思います。運動発達障害の例としては、脳性麻痺を代表とする運動機能障害、あるいはダウン症などがあります。身体機能の配慮に加え、知能の遅れや2次的に生じる心理的な問題への配慮も不可欠です。毎日の生活の基本作業、子供同士の遊び、集団での一斉活動など、あらゆる場面で丁寧な配慮と支援が不可欠になります。一方で、大人ができる支援というのは積極的に行いますが、必要以上の支援が発達や特に自立の妨げになる場合もあります。支援のさじ加減を見極めて、必要な支援と不必要な支援を区分していく必要があります。なお、運動発達が遅れる病態の背景には様々な病気があります。専門機関や主治医との連携が不可欠になります。

例えば、てんかんの合併があってお薬を飲むことが不可欠な場合、あるいはダウン症の場合は心臓の病気や頚椎、首の骨の負担の軽減の問題など、様々な配慮が必要です。そういった日常生活、学校現場での必要な配慮についても、専門機関や主治医に確認する必要があります。

3番目、自閉スペクトラム症です。主な症状は、コミュニケーションや社会性の発達の遅れ、興味の偏り、こだわり、感覚調整障害です。まず、言葉や非言語を問わず、周囲との意思疎通や状況理解が苦手です。コミュニケーションのやり取りを豊かにしていくことが目標になります。

言葉が乏しく関わりが難しい場合は、子供の興味の対象を見つけ、その対象物を子供と大人が共有して遊んでいきます。最初は大人が子供に合わせ、子供目線に立ったやり取りを伸ばしていきます。非言語的なまなざしなどのコミュニケーションが十分でないと、言葉は増えていきません。言葉があるなしよりも、身振りや手振りやまなざしなど、非言語的なやり取りを豊かにしていくことが大切です。コミュニケーションが途切れずに繋がっていく楽しい時間を共有し、子供と一緒に笑い合うことが関わりの目安になります。

一方で、言葉が増えても自分だけの言葉にならないように、他者と通じ合う経験を重ねていきます。言葉はコミュニケーションの手段であることを実感してもらいます。集団場面でも分かりやすく状況の理解ができるように、時間や空間の見通しを良くする構造化を心がけます。

また、予想外のことが苦手で、予測の立ちやすいスケジュールを目で見えるように提示し、空間配置もわかりやすくします。感覚調整障害、一般に感覚過敏と言われますが、それへの配慮も不可欠です。定型発達よりも感度が高く、普通の刺激でも耐えがたく感じることがあります。特に幼児期では聴覚、触覚、味覚の過敏が目立ちます。

ざわざわした雰囲気や普段と違った雰囲気に敏感で、すぐに不安になります。苦手な刺激は無理に我慢させず、刺激の源と距離を取りながら徐々に慣らしていきます。パニックになったらその場を離れ、別のことで気持ちをそらしてクールダウンを図ります。苦手な刺激への無理はトラウマになることがあります。他にも、自閉スペクトラム症では、目に見えないこと、暗黙のルールや例え話、言葉の裏を読むこと、空気を読むことも苦手です。そういったものが「当たり前」と思わずに、子供が困っていればその都度噛み砕いた説明が必要になります。

一方で、興味の偏りやこだわりはプラスに作用する場面もあります。得意なことは積極的に伸ばし、その子の強みとして自信をつけさせていきます。成長するにつれ、表面的には問題がないように見える場合もありますが、身の回りの出来事への理解や感じ方、つまり認知は依然として独特な場合が多いです。本人がどのように感じて理解しているのかは、本人にしかわかりません。大きくなっても、それぞれの特性に合わせた支援や工夫は不可欠です。

 

 

 

発達障害対応では個別特性を分析し、知的発達障害への理解、発達・知能検査、視覚情報提示、感情表現支援が重要。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

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それでは、次に、個々の発達障害の概要と対応のコツについて触れていきたいと思います。対応は一般的です。ただし、先ほどからお話ししているように、対応や支援は診断名に基づいて行われるものではありません。すなわち、自閉スペクトラム症であればこういう対応がある、ADHDであればこういう対応があるという訳ではなく、診断名と一対一で支援が決まるわけではありません。繰り返しになりますが、1人の人間に複数の発達障害が存在することがあります。ですので、1人1人の人間の特性を分析して、日常生活で何に困っているか、医学的な用語では症状という言い方をしますが、それをスタート点として支援がなされます。診断はあくまで支援の手がかりであり、ヒントを与えるものでしかありません。

まず、知的発達障害についてです。これは昔は知的障害や精神遅滞という言い方をしていた状態です。年齢相当の知能が獲得されていない状態を知的障害、知的発達障害と言います。遅れに見合った環境設定をすることが対応の原則になります。

実際の年齢、すなわち暦年齢ではなく、発達の年齢に合わせた対応をしていきます。そして、発達の年齢が何歳ぐらいであるかを見るのが発達検査や知能検査です。例えば、4歳の子供で発達検査をして発達指数が70であったとします。これは、年齢の70%の発達段階であるということになります。すなわち、4歳で発達指数が70ということは、発達年齢は2.8歳、およそ3歳手前ぐらいの水準が適切ということになります。同様に、10歳の子供で知能指数が70であれば、約7歳ぐらいの知能レベルということになります。

そのように、年齢ではなく、発達年齢に合わせた対応をすることが、知的発達障害がある子供の対応の原則です。具体的には、耳から聞いただけでは理解できないことが多いため、目で見てわかるような視覚的な情報提示を必ず行います。

それから、話し手が複数いる場合、どこに注意を向けたらよいかわからなくなることがあります。授業では、先生1人だけが話しているわけではなく、周囲が騒がしい場合、どこに注意を向けるべきかわからなくなることがあります。また、理解が不十分なまま返事をすることもよくあります。ですので、大事なことを話している時は耳を傾けるように促し、言葉をできるだけ平易な表現で伝え、理解の度合いを確認します。1つ1つ丁寧に教えていくことが必要です。

理解だけでなく、表現にも課題があります。自分の気持ちや欲求を言葉で表現できないため、行動で示すことがあります。例えば、心配そうな表情、イライラした態度、乱暴な行動、落ち込んだ雰囲気など、普段と違う態度や行動があれば、周囲の大人がその気持ちを察してあげる必要があります。

 

 

 

発達障害定義の変遷、平成16年制定・28年改正の発達障害者支援法、社会的障壁概念導入、多様な発達障害の分類と理解強調。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

発達障害についての法律が出来たのは画期的であった、

 

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もう1つの発達障害の定義は、平成16年に制定された発達障害者支援法の中にあります。このように記述されています: 発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如・多動性障害その他これに類する脳機能の障害であり、その症状が通常低年齢において発現するものと定義されています。 ただし、前にも述べたように、発達障害は発達の凸凹だけで発症するものではありません。先ほどの定義では、脳機能の障害があることがすなわち発達障害と解釈されがちです。しかし、そうではありません。そこで、平成28年に発達障害者支援法が改正され、社会的障壁という概念が取り入れられました。 法律では、発達障害者とは、発達障害があり、それに加えて社会的障壁により日常生活または社会生活に制限を受けるものというのが新しい発達障害の定義です。繰り返しますが、障害だけでは発達障害にならず、それを妨げる社会的障壁があることが問題とされています。 この社会的障壁は、ミスマッチや不適応という問題とリンクします。例えば、発達障害者支援法では、社会的障壁とは、発達障害のある者にとって、日常生活または社会生活を営む上で障害となるような社会における事物、制度、慣習、観念その他一切のものとされています。 例えば、障害に対する必要な配慮がなされないこと、様々な制度上の不利益、物理的なバリアフリーへの欠如、そして何よりも、障害を持つ人々や障害事態に対する差別や偏見など、様々な社会的課題が、発達障害の適応と発達を妨げています。

それでは、個々の発達障害について少し触れたいと思います。 表1-1-3に代表的な6つの発達障害を挙げてあります。ただし、重要なことは、1人1人の子どもや大人を見ると、1人が1つの発達障害を持っているということは稀です。

同一人物に複数の発達障害が併存しており、しばしば1人の中でいくつかの発達障害が合わさっていることが多いです。これを例えば、「発達障害はミックスジュースのようだ」と表現する医師もいます。

1つの要素ではなく、様々な成分が含まれています。その混在した状態を便宜上6つに分類したものが表1-1-3です。この表には6つの発達障害が記載されており、1番左の欄には診断名があります。診断名は、例えば、知的発達障害、自閉スペクトラム症など、診断名が変遷しています。最新の診断名は「知的発達障害」であり、自閉スペクトラム症は以前は広汎性発達障害(PDD)とも呼ばれていましたが、現在は自閉スペクトラム症という表現が一般的です。これら6つの発達障害は、どのような能力の発達が遅れているかによって分類されています。それらは、知能、運動能力、コミュニケーション能力、注意力、集中力、社会的学習能力、そして複数の運動や調整能力の6つの分野に分けられています。